バイオジェニックスとは
バイオジェニックスとは、腸内細菌研究の第一人者である東京大学名誉教授の光岡知足先生によって提唱されました。
直接、あるいは腸内フローラを介して
- 免疫賦活
- コレステロール低下作用
- 血圧降下作用
- 整腸作用
- 抗腫瘍効果
- 抗血栓
- 造血作用
など、生体調節、生体防御、疾病予防・回復、老化制御等に働く食品成分と定義されています。
プロバイオティクスとバイオジェニックスの違い
実はプロバイオティクスの概念を着想したロシアの微生物学者でイリヤ・メチニコフ博士(1845-1916)も生菌・死菌のどちらにも効果があると指摘していました。
100年以上前から死んでしまった乳酸菌でも良い効果があることは確認されていたわけです。
しかし、一般的によく知られる『プロバイオティクス』の定義を確認してみると、国連食糧農業機関と世界保健機関の合同専門家会議(2001年)においては、
「十分な量を投与すれば宿主の健康に利益を与える生きている微生物」
とされ、死菌や菌による産生物質による良い効果には言及されていないようです。
つまり、厳密に言えば『プロバイオティクス』とは生菌によるヒトや動物への良い効果のみを指す概念・学術用語ということになります。
このような理由から死菌や菌の産生物質による効果はプロバイオティクスの範疇から外れてしまうで、バイオジェニックスという概念が必要になるわけですね。
※プロバイオティクスの範囲を生菌のみならず死菌や菌外産生物質にまで広げるという説もあるようです。
乳酸菌の菌体(菌のカラダ)や菌の産生物質のバイオジェニックス的な効果
プロバイオティクスは生きた微生物による効果に限定されていますが、バイオジェニックスの範囲は様々な栄養素による良い効果に及びます。
特にバイオジェニックス的な成分として話題になるものは乳酸菌・ビフィズス菌などの菌体(カラダ)、乳酸菌・ビフィズス菌の産生物質です。(狭義のバイオジェニックス)
乳酸菌・ビフィズス菌の菌体自体による効果
乳酸菌の「菌体」自体に免疫を強化したり、免疫調整作用(抗アレルギー作用)が見つかっているものがあります。
「菌体」による作用なので菌が必ずしも菌が生きている必要はありません。
乳酸菌・ビフィズス菌が産生する物質による効果
菌体外多糖を産生する菌
乳酸菌・ビフィズス菌のなかにはは菌体外多糖(EPS=extracellular polysaccharideまたはexopolysaccharide)を作り出すものがあり、
乳酸菌の作り出したEPSには免疫力強化作用や抗アレルギー作用、食物繊維のような働きをしてコレステロール値の上昇を抑制する作用などがあるものが発見されています。
菌の作り出した物質による作用なので、これもまた菌の生き死には関係ありません。
抗菌物質をするロイテリ菌
ロイテリ菌はロイテリンという抗菌物質を作り出し、これは一般的にヒトにとってあまり好ましくないとされている、
- グラム陽性菌
- グラム陰性菌
- 酵母
- カビ
- 原生動物
- ウイルス
などの生育を抑制する働きがあります。
このように菌体や菌の作り出した物質には有用な効果が期待できます。
生きたまま腸に届く菌のほうが良いような感覚がある
私達の感覚的には死んでしまった菌よりも「生きて腸まで届く」プロバイオティクス菌のほうがより効果的であるように感じます。
しかし、もし仮に生菌と死菌で同じ効果が得られるなら、商品の管理のしやすさ多くの菌を一度に取れるといったことなどからバイオジェニックスのほうが優れていると言える場合もあるわけです。
プロバイオティクスとバイオジェニックスの具体例
おなじみのヨーグルトである
- R-1(OLL1073R-1株)を含む「明治プロビオヨーグルトR-1」
- LG21(OLL2716菌)を含む「明治プロビオヨーグルトLG21」
を例にとって比較してみます。
どちらも定番のヨーグルトですね。
R-1は菌が作り出した物質がウリ
「強さひきだす乳酸菌」というキャッチコピーのR-1ヨーグルトの魅力ははR-1乳酸菌が発酵するときに作り出した菌体外多糖(EPS)です。
R-1乳酸菌が胃や大腸に生きて届いてどうこうするということではなく、R-1株が増殖する際に産生した菌体外多糖(EPS)がR-1のセールスポイントです。
この菌体外多糖(EPS)が私達の「強さ」(=免疫力)を活性化してくれます。
そのため仮にヨーグルトの中のR-1乳酸菌が死んでしまっていてもR-1ヨーグルトの魅力はあまり変わりません。
LG21株は生きたまま胃に届いてほしい
「リスクと戦う乳酸菌」というキャッチコピーの明治プロビオヨーグルトLG21の魅力は多くのヒトの胃に潜む「リスク」(=ピロリ菌)と戦ってくれるLG21乳酸菌を含むことです。
LG21乳酸菌には生きた状態で胃で活動し、「リスク=(ピロリ菌)」と戦ってもらわなければなりません。
そのためには当然ですが、生きたLG21株を胃に送り込む必要があります。
このようなふうに見てみるとそれぞれに期待する効果は違うものの、R-1はバイオジェニックス的要素の強いヨーグルトで、一方LG21はプロバイオティクス的要素の強いヨーグルトだということができると思います。
R-1ヨーグルトを購入する際には菌が死んでしまっていても構わないので賞味期限ギリギリでもあまり気になりませんが、LG21の場合には工場出荷からあまり時間が経っていない新鮮でLG21乳酸菌が元気なものを欲しくなりますね。
バイオジェニックスのほうがプロバイオティクスより優れているか?
バイオジェニックスはプロバイオティクスという概念を包括するようなものなので当然、優劣をつけることはできませんね。
たとえばビフィズス菌LKM512株は「生きたまま腸に届き、しかも増殖する」プロバイオティクス菌ですが、腸内でポリアミンという有用物質を産生するこが魅力の菌でもあります。
つまり、プロバイオティクス菌であるビフィズス菌LKM512は生きたまま腸に届き、バイオジェニックス(菌の産生物質による良い効果)的な効果も発揮するということになります。
様々な菌の研究を見てみればわかることですが『菌』によって効果を発揮するメカニズムが違うので、
- 菌が生きたまま目的の場所に届かなければならない
- 菌が生きたまま腸に届く必要はない
という議論はあまり意味がないものといえるかと思います。
菌によってその事情は異なってくるのです。
ただし、ものすごく狭い意味にバイオジェニックス(菌のカラダ自体や菌の産生した物質に的を絞る)を解釈すれば、次のようなメリットがありそうです。
- 加熱殺菌することによって効果がアップする菌がある(免疫力強化など)
- 一度にたくさんの菌数を摂取することができる場合がある(一度に数兆個という単位で摂取できる)
- 死菌のため品質が安定して、製品の賞味期限を長くすることができる
- 管理がしやすい
- 商品の応用範囲が広い
このページでは、
- 菌体自体に効果が期待される菌
- 菌の産生物質に有用な効果が期待される菌
をまとめました。
菌のなかにはプロバイオティクス的な要素、バイオジェニックス的な要素の両方を兼ね備えているものもあります。